東京高等裁判所 昭和28年(う)1454号 判決
被告人 皆川晃
〔抄 録〕
職権で原判決の法令の適用の当否につき調査するのに、原判決は被告人の所為が併合罪の関係にある数罪を構成するものと解し、刑法第四十五条第四十八条を適用して被告人を罰金四万円に処している。なるほど原判決の判示するところによれば被告人の所為により四名の者が傷害を負つたというのであるから、そこに四個の業務上過失傷害罪が成立したことは正しい。しかしながら、さらに原判決の判示するところを見ると、被告人はその操縦する自動車の「足踏制動機の操作にのみ気を配つて前方四十米の距離の右側道路沿いにある船橋市警察署宮本町巡査派出所に注意せず運転進行した不注意に因り被告人操縦の自動車を同派出所に衝突せしめて同所内に乗り入れた為直接又は同所内破壊の為 同所にあつた四人の者に傷害を負わせたというのである。してみれば、被告人の過失による行為は自然的事実としては一個しかなかつたというべきであり、これによつて数個の結果を発生せしめたというのであれば、その数個の罪は刑法第五十四条第一項前段のいわゆる観念的競合(想像的競合)の関係に立つものであつて、同法第四十五条前段の併合罪ではないといわなければならない。原判決は四名の者の傷害が必ずしも同一瞬間に発生したものでないことからこれを併合罪だと判断したものかもしれないが、結果の発生が同時でなかつたということは別に観念的競合の関係の成立を妨げるものではないのである。しからば原判決には法令の適用に誤があり、その誤は被告人に対する処断刑に変化を来すものであつて判決に影響を及ぼすことが明らかであるから弁護人の論旨について判断するまでもなく原判決はこの点において破棄を免れない。